あなたへ


 誰かのために、何かをしたくなって、この手紙を書いています。
 あの頃の私は、とてもとても小さくて、あなたを見上げては、眩しさに目を細めていました。あなたはいつも上を向いていたから、私はいつも、何を考えていたのか図りかねていました。
 私はいつも、そんなあなたに声をかける事もできなくて、ただただ見上げているばかりでした。
 あなたは私に気づいては、その大きな手で、私の頭をやさしくなでました。大きな大きな手のぬくもりは、私を大きな優しさで包んでくれました。
 あの時の、あの場所は、今はもう、ありません。全ては消えてしまいました。
 私は泣くことも、嘆くこともできず、あの場所の近くへ行く度に、心がきゅっと痛みます。
 私はおとなになりました。月日は正確に、私へと襲ってきます。私はそれをただただ受け入れるだけです。喜ばしいのか、哀しむべきなのか、あるいは、もっと別の、別の感情を抱くべきなのか、図りかねています。
 あの日のあなたの、あの言葉は、いまでも鮮明に覚えています。夢のなかにいるようだったのに、それは全て現実で、空の色も、木の音も、何もかもを思い出すことができます。
 どこに行けばわからなくなった時、私はあの日のあなたを思い出します。あの、鮮烈な太陽の日差しを思い出します。
 きっと、あなたはもう覚えてはいないでしょう。だけども、私にとっては、とてもとても大切な思い出です。
 また、あなたに会えるでしょうか。記憶のなかに眠る、あなたに、会えるでしょうか。
 長々とかいてしまいました。それでは、お体にお気をつけて。



私はここにいるの。それを伝えたくて、この手紙をかいているのかもしれない。

11・0618




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